異次元の規制緩和でくらし犠牲
参議院で審議されている生産性向上特別措置法案には「規制のサンドボックス」制度の創設が盛り込まれています。法案は、昨年12月に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」で位置付けた「生産性革命」を受けたもので、3年間の時限立法です。異次元の規制緩和策によって安全で安心した暮らしが企業利益の犠牲になろうとしています。
(斎藤和紀)
既存の全規制対象/一時凍結が可能に
法案は、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの新技術や新しいビジネスモデルの社会実装により、「短期間での生産性向上」を実現することが目的です。柱の一つが、プロジェクト型「規制のサンドボックス」です。
「サンドボックス」は、日本語で「砂場」を意味します。子どもが砂場で思うがままに遊ぶように、「まずはやってみよう」という発想で、政府があらゆる規制を一時的に凍結し、企業の実証実験を認める制度です。
新技術や新しいビジネスモデルを含んだ実証計画を、内閣官房に設置される「一元的窓口」に企業が申請。事業や規制を所管する大臣の認定を得られれば、あらゆる既存の規制を一時凍結・免除したもとで、実証実験を実施することができます。
実施にあたっては、期間や場所を限定し、参加者の同意を得るといいます。しかし、参加者の定義は明確ではなく、人の出入りが多い市街地での実験の場合、すべての参加者に同意を求めることはできません。しかも、実証実験中に生じたトラブルの補償や責任の規定は、何ら設けられていません。
サンドボックス制度は、英国やシンガポールなど18カ国で採用されています。各国では、IT技術を用いたフィンテック(金融テクノロジー)などの金融分野に限られています。ところが、日本政府が創設を目指す同制度の対象分野は、無制限です。
安全性そっちのけ/「白タク」解禁狙う
4月11日の衆議院経済産業委員会で、日本共産党の笠井亮議員は、規制緩和が狙われる具体例として、ライドシェア(相乗り)事業を取り上げました。世耕弘成経済産業相は「申請をいただくことは可能」と答えました。
ライドシェア事業は、一般の運転者が自家用車で他人を有償で輸送するもの。道路運送法では、安全運行するための運行計画や、運転者の要件、保険加入の義務などに違反する「白タク」行為として、禁止されています。
ところが、経済産業省は、産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」により、運転者が受け取る費用がガソリン代と高速道路料金などの実費での“相乗り″であれば合法だとしました。運転者と利用者をマッチングする場を提供するにすぎないとし、道路運送法の規制の対象外としたのです。安全性や利用者保護の担保がない事業に、国がお墨付きを与えました。一方、有償での輸送事業には、依然として業法の規制が及びます。
サンドボックス制度によって、この規制が正面突破され、営利目的での白タク事業の解禁につながりかねません。
携帯電話を活用したライドシェア事業は世界的に広がっていますが、ライドシェア運転者による事件や事故が世界各地で相次いでいます。ライドシェア最大手のウーバーは8年間で84カ国、632都市に進出しました。しかし、乱暴な経営姿勢に対し各国で市民が反発。ウーバーは次々に撤退を余儀なくされています。
欧州のほぼ全域で公然と営業できなくなった同社が“強い関心″を示しているのが、日本市場です。サンドボックス制度で白タクが解禁されれば、タクシー産業と労働者への影響は甚大です。業界の健全な発展や、利用者が安全・安心して利用できる土台を根本から崩すことになります。
笠井議員は、4月11日の衆議院経済産業委員会で、雇用や労働に関わる分野も対象に含まれるかどうか質問。世耕経産相は、「排除されない」と答弁しました。サンドボックス制度を活用すれば、労働法制の規制をとりはずすことが可能というわけです。
安倍政権は、新技術に対応して変化する産業構造に合わせ、就業構造も変えようとしています。
安倍政権の成長戦略「未来投資戦略2017」は、「人づくり革命」として「雇用関係によらない働き方」の実現を盛り込みました。その具体例としてフリーランスや請負などが挙がっています。フリーランスは、企業と雇用契約を結ばないので、労働時間や最低賃金、残業代、有給休暇など、労働法制の対象から外れています。サンドボックス制度は、フリーランスの働き方を加速させる危険があります。
ドイツでは、連邦労働社会省が「労働4・0」白書を取りまとめ、技術革新を良質な雇用に結びつけるための検討に取り組んでいます。この方向にこそ進むべきです。
企業のため日本を“世界の実験場″に
政府は、サンドボックス制度を利用し、海外企業を誘致することを狙っています。
昨年11月の未来投資会議の会合では、政府は、アフリカ諸国で小型無人機ドローンの実証を、海外企業を誘致しながら進めている事例を持ち出し、「世界の実験場としての地位を確立」していると評価。日本も早急な対応を行うよう提起しました。法案に対する衆議院経済産業委員会の付帯決議には、海外企業の実証実験を誘致するため「外国での広報活動にも積極的に取り組むこと」が盛り込まれました。
海外企業誘致のために、日本を「世界の実験場」とする魂胆です。
【「しんぶん赤旗」2018/5/3付】