核禁条約が核軍縮議論を新しいステージに引き上げた
第10回NPT再検討会議 笠井亮衆院議員に聞く
8月1~26日に米ニューヨークの国連本部で開かれた第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議の結果をどうみるべきか―。核兵器禁止条約(核禁条約)第1回締約国会議(6月、ウィーン)につづき、再検討会議にも参加した日本共産党の笠井亮衆院議員(党国際委員会副責任者)に聞きました。(吉本博美)
最終文書を合意できず閉幕したが
今回のNPT再検討会議は前回会議(2015年)に続き、最終文書を合意できずに閉幕しました。多くのメディアがこの結果を「再び決裂」「核軍縮の機運がしぼむ」などと報じました。
笠井 最終日の全体会合で、スラウビネン議長が「今日、残念ながらたった1カ国が異論を示した」とアナウンス。「核兵器のない世界」へ前進をと熱い討論が展開され、私自身も発言した国連本会議場が、ため息と落胆、怒りに包まれたのはよくわかります。
唯一反対したロシアはもとより、「核抑止力」に固執して前進を押しとどめようとした核保有五大国は厳しく非難されなければなりません。
「冷戦の最盛期以来、かつてないほどの核使用の脅威」(最終文書案)が高まっているにもかかわらず、NPTの要といえる第6条の核軍備撤廃の交渉義務を誠実に履行しようとしない。この核保有国の姿勢に「一握りの締約国に軍縮義務を実行する気がさらさらないことが明白になった」(マレーシア)と厳しい批判の声が早速あがりました。
ただ7年前の会議と明らかに違うのは、核兵器禁止条約が発効し、今年6月の第1回締約国会議で採択されたウィーン宣言・行動計画があることです。
これを力にした国々の活躍が目立ち、攻勢的で説得力ある議論によって、ウィーンの熱気がニューヨークに持ち込まれて、採択されなかったとはいえ、ロシア以外のすべての締約国が異議を唱えなかった到達点が最終文書案といえます。
最終文書案 注目点は
今回、ギリギリの修正協議の結果、最終文書案にはどのような点が盛り込まれましたか。
笠井 「核兵器使用の壊滅的な人道的結末の認識が、核軍備撤廃に向けたわれわれのアプローチと取り組みのしかるべき土台となることを確認する」と踏み込みました。
NPT第6条のもとで「核兵器の完全廃絶を実現する核兵器国の明確な約束の再確認」を明記したことも重要です。
何より核兵器禁止条約の採択を「認識する」とし、「第1回締約国会議が開催された」とはっきり認めました。
日本共産党が再検討会議に要請した方向が、多くの核保有国も否定できない世界の圧倒的多数の声となっていると大いに確信にしています。
また、ウィーン宣言が重視した核兵器の使用・実験で影響を受けた人々と地域社会への支援、環境修復、ジェンダーの視点、核軍縮プロセスへの市民社会の参加促進なども新たに反映されています。
再検討会議のスラウビネン議長は閉幕にあたって「大多数の国が核軍縮で一層の前進が必要だと主張し続けた。これは最終文書案の不採択を理由に消え去るメッセージではない」と訴えましたが、まさにその通りだと感じています。
(写真)第10回NPT再検討会議の最後の全体会合で発言するスラウビネン議長=8月26日、ニューヨーク国連本部(石黒みずほ撮影)
核保有国の変化は
核禁条約が発効したもとで、核保有国の論調に変化はありましたか。
笠井 今回の会議に参加して核保有国は防戦に追い込まれていたと感じました。実際、核兵器の非人道性や核禁条約に言及した多数の国が支持する文書案に明確な根拠も示さないまま削除や変更を求めました。「核兵器のない世界」を追求する世界の本流から孤立する姿は鮮明です。
核保有国が主張する「核抑止論」も、ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領が核兵器を使用すると世界を脅したことからも、その破綻は明らかです。
コスタリカが紹介した「核兵器の非人道性に関する共同声明」(8月22日)にある「核兵器を再び使用させない唯一の保障は、核兵器の完全廃絶」という主張こそ説得力がありました。
核禁条約の締約国・署名国の共同声明(8月17日)も「核兵器は緊張激化につながる政策の道具として使用されている」と「核抑止論」を批判しました。
核保有国は「NPTと核禁条約は矛盾する」と批判します。しかし核禁条約は、核保有国が第6条に基づき核兵器をなくす交渉努力を始めなかったために生まれた条約で、核禁条約とNPTの「補完関係」は明白です。
核禁条約の発効によって、国際社会における核軍縮議論のステージが引き上がったと実感しました。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、核禁条約を「認識する」との記述が入ったのは「NPTに積極的な影響を与えていることの表れだ」と評価しました。
核なき世界実現へ課題
「核兵器のない世界」の実現に向けたこれからの課題は。
笠井 最終文書案の修正協議で核保有国によって削除された「核兵器の先制不使用」、「いかなる状況下でも非核保有国への核使用や威嚇を行わない」は、引き続き大きな論点になるでしょう。
核兵器廃絶に向けて、何より核保有国と同盟国に期限を区切った行動をとらせることであり、「核抑止論」を克服させなければいけません。
そのためにNPTと核禁条約を「車の両輪」にし、市民社会の諸国政府の共同、草の根の世論と運動を前進させることがいよいよ急がれます。
再検討会議の最終日には、核禁条約締約国・署名国を代表してメキシコが「NPTの目的達成には(核禁条約という)新たな勢いが必要だ」と述べました。人類を核兵器の破局から救うためには、全ての国が核禁条約に参加することが求められているとして、「核兵器を完全廃絶するまで歩みを止めない」と決意を語りました。
核禁条約の締約国会議で議長を務めたオーストリア外務省のクメント軍縮局長も、1カ月間の再検討会議は「NPTが、その義務や約束がどうであれ、現実には核軍縮でほとんど前進をつくらない」ことを示したと指摘し、「第6条で実際の前進を達成したいと望むすべての国は核禁条約に参加を」と呼びかけています。
唯一の戦争被爆国の岸田首相が、再検討会議でも世界の流れに逆行する恥ずべき姿勢をあらわにした中で、いよいよ核禁条約に参加する政府に変えるときです。
日本には、歴史と伝統ある原水爆禁止運動があります。反戦平和、核兵器廃絶、被爆者援護など、受け継がれてきた粘り強いたたかいの歴史は、私たちにとって大きな誇りです。
日本共産党は「核戦争の防止と核兵器の廃絶」を綱領に掲げ、100年反戦平和を貫いてきました。「核兵器のない世界」を実現するため、これからも世界の市民社会と諸国政府と力を合わせて奮闘していきたいと思います。
【「しんぶん赤旗」2022年9月6日付け】