対談上

(「しんぶん赤旗」2008年6月6日付より)

対談2名
共産党欧州調査団団長 笠井亮衆院議員(左)と気候ネットワークの浅岡美恵代表

◎地球の悲鳴

温暖化から地球と人類の未来をいかに救うか。7月に行われる洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に、世界の注目が集まっています。議長国である日本の役割、政治の責任について、NPO気候ネットワーク代表として地球温暖化対策に取り組む浅岡美恵さんと、日本共産党欧州温暖化対策調査団団長として3月に欧州を訪れた笠井亮衆院議員が、対談しました。

笠井   議長国の役割果たさず

浅岡   対応遅れ経団連の影響


英大使館が日本語冊子

   笠井    サミットまで一カ月ですが、日本政府は温室効果ガス削減の二〇二〇年までの中期目標を示さずに、二〇五〇年までの長期目標は「福田ビジョン」で出すといっています。長期的で大幅な削減のためには、その通過点としての中期目標を明らかにして、着実に減らしていくことが必要です。五〇年というと、四十二年後。私は九十八歳くらい(笑い)、少なくとも第一線では仕事をしていないでしょう。

   浅岡     そうですね。

駐日英国大使館が最近作った日本語の冊子『地球温暖化‥日本への影響』
駐日英国大使館が最近作った日本語の冊子
『地球温暖化‥日本への影響』

   笠井   「わが亡きあとに洪水はきたれ」といわれますが、中期目標抜きではそういう姿勢が見えて…。ここに駐日英国大使館が最近作った日本語の冊子『地球温暖化‥日本への影響』を持ってきましたが、温暖化が日本に及ぼすさまざまな影響を取り上げています。

   浅岡     私も、神戸で開かれた主要八カ国(G8)環境相会合のために来日したヒラリー・ベンさん(英環境・食糧・農村地域相)と会った時にいただきました。もう恥ずかしくて。日本政府がすべきことをしてもらっているわけだから。

   笠井   その通りです。温暖化対策をとらなければ日本での「コメの生産高が12%ないし13%減少する」とか、気候パターンが崩れ「豪雨と渇水に脅かされる」など日本の研究者の到達点をもとに書いているんです。

   浅岡     ええ。

   笠井    裏に「協力‥環境省」とありますが、こういう分かりやすいパンフレットは日本政府が出して国民に訴えるべきものです。「日本には、京都議定書の削減目標の達成に努力し、すぐれた模範を世界に示すことが求められている」と強い期待がのべられています。

   浅岡     英国産業連盟(CBI)も『気候変動』という冊子をつくり、英駐日大使館がその日本語版を出していますね。  ここまで作るのは、温暖化問題がどれだけ深刻なのかを日本はまだわかっていない、ちゃんと理解すれば、もう少し変わると考えているからではないでしょうか。


中期目標は考え方程度

   笠井    G8環境相会合が開かれた神戸へ?

   浅岡     はい。サミットに向けて、メッセージを出すことが期待されていたのに、ならなかった。

   笠井    そうです。

   浅岡    一番大きな要因は日本の問題だと、それが浮かび上がりました。長期目標はサミット前に示されそうですが、中期目標は考え方程度のようですね。日本が主張してきた、業種や分野(セクター)ごとに可能とされる削減量を積み上げて中期目標とするとの「セクター別アプローチ」についても、科学的に必要な削減レベルとの間のギャップを「埋める必要がある」と、議長総括でクギが刺されました。

   笠井    そうですね。

   浅岡     京都議定書から離脱しているアメリカの問題もありますが、日本が先進国の主要な一員として、役割と責任を明確に打ち出すことが、次の交渉の展望を開くためだけでなく、日本の経済にも不可欠です。

   笠井    同感です。最大の問題は、京都議定書の第一約束期間(二〇〇八―一二年)に続く二〇一三年以降の数値目標が示されない。日本が相変わらず「セクター別アプローチ」に固執し、まさにやらなきゃいけない削減目標とのギャップができるやり方をとっているという点です。

   浅岡     ええ。

   笠井    しかも途上国がむしろ積極目標を出してきている状況です。インドネシアはエネルギー部門で二〇二五年までに17%削減すると。ところが、長期目標の50%削減も、アメリカがうんと言わないので法的拘束力をもつものにならない。「先進国が率先して」と議長総括でも言わざるをえなかったように、日本が、議長国としてイニシアチブを果たしていないのが大きな問題です。
それに、日本自身が温室効果ガスを一九九〇年比で6%削減することになっている京都議定書の第一約束期間が始まったところで、逆に6・2%も増やしている。ヨーロッパでは、ドイツが18・6%、イギリス14・8%、EU全体でも二十七カ国で7・9%、実際に減らしているのに。


   浅岡     そう。

経済2団体対照的意見


   笠井    イギリスのベン環境相は「世界で第2の産業革命を起こさなければならない」「中期、長期の目標をともに設定しなければならない。目標なしに取り組みは進まない」(「毎日」五月二十七日付夕刊)と。

   浅岡    違いますね。

   笠井    ドイツの政府代表も、先進国が二〇二〇年までに25―40%減らすという中期目標に合意しなければ、世界の削減目標は達成できないとはっきりいっています。結局、どれだけ危機感、緊迫感、責任感を持って、政治がその仕事をするか。これが日本政府に問われていると思うんです。

   浅岡    G8環境大臣会合で印象的だったのは、各国の大臣たちと各界代表との対話です。日本の経済界から参加した日本経団連が、セクター別アプローチは当然だと話したのに対し、経済同友会は温暖化をとめるために、やるべきことをしなければいけないと。

   笠井    対照的ですね。

   浅岡    日本の経済界の代表として、二つの団体はまったく違う意見を世界の大臣に示したわけです。
  温暖化問題に緊急に対処しなければならないと国際社会が認識しているなかで、交渉の原動力に日本がなれないどころか、国際社会の足を引っ張っている。日本の温暖化政策が日本経団連に大きく影響されていることが見えたのではないでしょうか。 (つづく)



対談中

(「しんぶん赤旗」2008年6月8日付より)

笠井亮
気候ネット代表 浅岡美恵さん

浅岡   できること何でもする欧州


   浅岡    イギリスの大臣は、温暖化防止のためには、できることは何でもしなければいけないと言っていました。

   笠井    そこですね。

   浅岡   太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを増やすために、ここに至って、ドイツの電力買い取り制度も含めて、いろんな経験を本当に深めて、政策を見直し、みんな実行するというわけ。こんな形で国民に接することが、政治をつくっていくことになるんだと思いますね。

   笠井     昨年十一月に補給艦「ときわ」がインド洋から日本に帰ってきました。二カ月給油をやっていないからといって世界から非難などまったくない。米国と一蓮托生(いちれんたくしょう)で給油を再開したいとあくまで日米同盟にしがみつくのは日本ぐらいですよ。

長期的にはメリットが

笠井   資本主義でも天と地の違い

笠井亮
衆院議員 笠井亮

   笠井    実感したのは、私たちがヨーロッパでの先進的な取り組みを調査してみて、同じ資本主義でも天と地の違いがあるなということです。彼らは資本主義のぎりぎりまで挑戦しようとしています。「課題はやりきらなければならない。むしろその方が長期的にはメリットがある」がヨーロッパで共通の立場です。

   浅岡     ええ。

   笠井    たとえば、ドイツの経済技術者の方に聞きますと、政府と十九の産業団体との間で協定が結ばれました。二〇一二年までに産業界は21%削減という自主目標を上乗せし、35%削減の目標を打ち出しています。長期的な利益、視野を持って、ルールを定めて進めています。ヨーロッパのどこでも「野心的な」という言葉と、「法的拘束力がある数値」が共通して語られて。法制化の面でも、イギリス議会で世界初の気候変動法案が審議中で、ドイツでも総合的な法制化が進んでいます。


   浅岡    一番大きな違いは、彼らの共通認識として、産業革命前に比べて二度程度の気温上昇にとどめなければ、破壊的な被害が生まれると。そのために二〇五〇年には世界で一九九〇年比で温室効果ガスを半減させなければいけないと。その半減に加えて先進国はさらに減らさなければというのが、あらゆる活動の所与の条件にあるんです。



   笠井    そうですね。気候変動の重大性について科学の到達点や知見を緊迫感・切迫感をもって認識していましたね。懇談すると、世界の科学者が協力して温暖化の被害や抑制策を検討したIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の報告や、イギリス政府の求めで経済学的観点からまとめられた「スターン・レビュー(報告)」の内容がよく引用されました。スターン報告には「市場の失敗」などとありますが、環境破壊を顧みずに利潤第一でやってきたことへの反省を込めて、二度以内に抑えるために率先して大幅な削減をやらなければという共通の決意が語られましたね。



経済界反対「でもやる」

   浅岡    二〇〇一年のころ、私もイギリスの経団連である英国産業連盟と会ったんですが、政府が税と組み合わせた排出量取引制度を始めたころです。それまで制度に反対していた経済界が受け入れた理由をたずねたら、「反対してきたが、反対しても政府はやる、といわれたからだ」と。つまり、経済界が反対するからできないといっている限りは政府の責任、政治の責任を果たしたことにはならないんです。

   笠井    私たちも英国産業連盟と初めて懇談しましたが、「削減と経済成長は両立できる。むしろビジネスチャンスだ」と語っていました。温暖化防止に取り組むことで、長期的には、取り組まない場合よりコストが少なくて済むんだといっていましたが、政治の側が科学的な知見をもとに明確な態度をとることで、経済界もその枠の中で考えていると思ったんです。

   浅岡     人類が生き延びるためには、早く手を打たなければならない、その思考が出発点です。世界は本気で動き出しているんです。なのに、日本はヨーロッパではヨーロッパの基準、国内ではルーズな基準という独自の政策でなんとかしのげるという思いがあるのか。ほんとうに幕末的な感じ(笑い)。  (つづく)


対談中

(「しんぶん赤旗」2008年6月10日付より)

浅岡   世界に追いつく気候保護法


笠井   法制度つくることが急務


   笠井    幕末ですか。イギリスの気候変動協定は政府と五十以上の産業部門ごとに結ばれ、六千の企業が参加していますから、進出している日本の企業なら、その協定に服しているわけですね。



   浅岡    世界がグローバル化して、温暖化問題は世界基準の最先端です。日本が国内政策に固執するのは、国際的な企業評価を大きく損ねていると思います。

法的拘束に日本が抵抗


笠井亮
衆院議員 笠井亮

   笠井    日本は経済界に対してものをいえない政治なので、ルールをつくって守らせないことが大きいですね。



   浅岡    法的拘束力という言葉に一番抵抗しているのが日本政府。ほかの国からは、「日本は法治国家ではないのか」と聞かれるくらいです。

   笠井    EU(欧州連合)からは「日本は法的拘束力のある明確な中・長期目標を持って」と強い期待の言葉を何度も聞きました。EUでは、社会のあり方というか持続可能な発展をはかる社会にしようと、最上位に気候変動対策を置いて、そのなかで消費と生産のパターンの変革への取り組みもしていました。

   浅岡    日本では温暖化防止のために何でもできるという選択肢を持てていません。日本の再生可能エネルギーが進まないのはひとえに原子力を優先させるからですし。  笠井さんはヨーロッパに行かれて「野心的」という言葉をあちこちで聞かれたと話されましたが、もう一つ、言われるのは「チャレンジ」。

   笠井    いろんなことを見直していると感じました。ドイツの国会議事堂は歴史的建造物ですが、天井をガラス張りのドームにして本会議場への自然採光に工夫をこらしていましたし、ミュンヘン郊外の七千人のザウアーラッハ市では、木質バイオエネルギーを活用した地域暖房と発電事業を一体でおこない、二酸化炭素を20%減らして地域振興に取り組んでいました。排出量取引の問題もEUは、やりながら問題点を検討し、よくしていこうというやり方です。

   浅岡   改め方が大胆です。変化がすごく生なましい。私たちがしなければいけないことは、今から二酸化炭素を減らさなければ気温が四度も上昇することにもなり、人類が生き延びることができる環境ではなくなると伝えることです。 ヨーロッパなどで先駆的なのは、家庭や中小企業の対策のなかで、経済的にできる人とできない人が出る事を考えて、支援策を練っている点です。

市民の中に重要さ伝え


笠井亮
気候ネット代表 浅岡美恵さん


   笠井     途上国との関係も同じですね。EUの中でも経済成長でいうと後発のところにも、どういう形で支援しながら全体として減らしていくのかと考えています。そういう意味で、技術的に進んだ日本ができる役割はあるだろうし、期待もされていますから、やはり「隗(かい)より始めよ」です。気候ネットワークは「気候保護法」を提案されていますが、削減目標を明確にした法的な仕組みをヨーロッパも大いに参考にして議論したい。

   浅岡   法案の枠組みはイギリスやドイツ、EUの仕組みを土台にして、ある意味では世界に追いつこうというものです。

   笠井     やはり日本の政府と産業界との削減のための公的協定を結ぶこと、排出量取引制度や環境税の導入など二酸化炭素排出削減を促す経済的措置をとる、再生可能エネルギーの活用を大胆に増やし、電力の固定買い取り制度を導入する、そして中長期削減目標を盛り込んだ法制度をつくることが急がれます。そのために大いにがんばりたい。

   浅岡   時間がありません。京都議定書後の削減の枠組みを決める二〇〇九年のコペンハーゲンでの合意は非常に重要で、これがうまくいかないと世界の温暖化対策の動き、取り組みの流れにマイナスの影響を及ぼします。市民の中に問題の重要さをもっと伝えなければと思っています。

 (おわり)